王女メディア 企画趣旨

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「長く記憶に残る演技」と高い評価を受けた初演から37年。
熱いアンコールにお応えして、
平幹二朗が、一世一代、ふたたび、メディアに挑む。

『王女メディア』はギリシア悲劇の三大作家の一人、エウリーピデースの代表作です。

平幹二朗は1978年に男優として王女メディア役に挑み、「長く記憶に残る演技」と高い評価を受けました。そして1983年にはアテネの舞台に立ち、ギリシアでギリシア以外の国の人間がギリシア悲劇を演じて初めて絶賛を浴びるという快挙を成し遂げたのです。

そして2012年、髙瀬久男の演出により平幹二朗の『王女メディア』が新しく甦り、日本各地で大絶賛を戴きました。各地の熱いリクエストにお応えして、一世一代、ふたたび、メディアに挑みます。

メディアと渡り合う夫イアーソンは、実力派俳優として活躍している山口馬木也が演じます。そして、演劇実験室天井桟敷の中心的俳優として活躍した若松武史、『冬のライオン』で葛藤する役どころを繊細に演じた記憶の新しい三浦浩一、シェイクスピア劇などで存在感のある演技が光る間宮啓行、廣田高志など、充実した共演陣が舞台を彩ります。

すべての固有名詞を普通名詞に置きかえた高橋睦郎の修辞により、古代ギリシアの神話的事件が、いつの時代、どこの場所でも起こり得る普遍的ドラマとして展開してゆきます。ギリシア、アテネで30分近くにも及ぶカーテンコールに包まれた平幹二朗の『王女メディア』男性の地声で演じられるメディアは強烈で、猛々しく、人間の悲しみや怒り、様々な感情を大きなスケールで浮き彫りにしてゆきます。

平幹二朗が、37年前の初演以来、今も「身体の中に棲みついている」と語る『王女メディア』。渾身の想いを込めて、一世一代、ふたたび、メディアに挑みます。どうぞ、お見逃しなく!

原作 エウリーピデース
修辞 高橋 睦郎
演出 髙瀬 久男
田尾下 哲
主演 平 幹二朗
企画・製作 幹の会+リリック

【お悔やみ】
2015年6月1日、演出家・髙瀬久男氏がお亡くなりになりました。この度の公演は2012年に上演した髙瀬演出の舞台の再演となります。今回は髙瀬氏の作品の遺志を受け継いで演出家・田尾下哲が務めます。

公演に関するお問い合わせは、スケジュールのページをご覧下さい。

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<追悼>         プロデューサー 秋山佐和子

演出家、髙瀬久男さんが、6月1日、帰らぬ人となりました。
髙瀬さんは演劇一筋でした。ご自身の企画の文学座公演「明治の柩」の開幕を前に、この作品と別れを告げなければならないことが、どれほど無念だったかと思うと、言葉がありません。
6月9日、文学座の皆さんの主催による、あたたかい心のこもった「お別れの会」が開かれました。スタッフ、役者、各地の鑑賞会の皆さん、劇評家、教え子、友人・・・髙瀬さんと共に苦しみ、悩み、そして喜びを分ち合った方々が大勢集まりました。仕事のために足を運ぶことができなかった方々も、沢山いらっしゃったと思います。あの髙瀬さんの明るい笑い声と共に、髙瀬さんが誕生させた作品は私たちの胸の中に生きています。そして、役者、スタッフ、教え子の皆さんは、髙瀬さんから直々に教わったことも体の中に生きています。
昨年の暮れに髙瀬さんから病状が思わしくないという電話がありました。髙瀬さんと話し合って、演出補に田尾下哲さんをお願いしました。この度、髙瀬さんの遺志を受け継いで演出してもらいたいという再度のお願いを、田尾下さんは快諾してくださいました。髙瀬さんが再演で作りたかったであろう「王女メディア」を目指して、田尾下さん、役者、スタッフの皆さんたちが全員一丸となって、熱い思いで作り上げます。髙瀬さん、安心してください。髙瀬さんに、「再演良くなったよね、ハハハ」と髪をかきあげながら、笑って言ってもらえるように、そして、お客様に感動していただける作品になるように努めて参る所存です。

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平幹二朗主演「王女メディア」に関わることの出来る幸せ
演出 田尾下哲


「西洋演劇を職業にしたいなら、ギリシャ悲劇とシェイクスピアを、何語でもいいから全部読みなさい」

私が演出家を志すに際し、師匠ミヒャエル・ハンペが言った言葉です。アジア人である私にとって、西洋演劇に向き合う時には宗教観、歴史観、身体言語、もちろんヨーロッパ言語…無限に学ばなければならないことがあります。ですが、ハンペは何にも先んじてギリシャ悲劇とシェイクスピアを読むように言いました。実際に戯曲を書く時にはギリシャ悲劇の展開だったら…とか、シェイクスピアならここで…とシミュレーションをしますし、西洋人の助手をしていた時には「彼女はクリタイムネストラのような野心家で」とか「メディアが子供を殺したように」と、ギリシャ悲劇でない作品の稽古中でも当然のように引用されるのがギリシャ悲劇であり、ギリシャ神話、シェイクスピアでした。「王女メディア」は、蜷川幸雄さんの演出、平幹二朗さんの主演舞台を見たことが演劇人として生きる決意を固めるきっかけになった舞台の一つでした。今回、髙瀬久男さんの遺志を引き継ぎ、演出させていただく機会をいただいたことに心から感謝し、丁寧に王女メディアの物語を描いていきたいと思います。